春風爽快 キセキの春 26

8強入りを懸け、これより34年前の選抜で死闘を演じた因縁のチームが相まみれた。

倉敷工 対 中京大中京
中京大中京230 100 000 6

倉敷工  010 004 000 5

倉敷工オーダー
1 捕 頼
2 中 井上
3 遊 三村
4 二 三木
5 一 日下
6 右 山形
7 投 山崎
8 三 内山
9 右 山本

倉工エース山崎は、初戦の金光大阪戦と同様、制球に苦しんだ。
四死球を繰り返すなど二回までに5点を奪われた。そんなエースを立ち直りさせたのは、声をかけ続けたナインだった。
中盤から、制球が安定。
五回以降は、得点を与えなかった。
何度も何度も、這い上がる。「粘りの倉工」のDNAが一つのビックプレイに、呼び覚まされた。
五回二死一、三塁のピンチ。
5点のビハインド。これ以上の追加点は、致命的だ。マウンドに、伝令の内田が、駆け寄る。「内角で、ゴロを打たせろ。」内野陣は、「はっ」とした。
「守りでリズムを作る倉工野球を思い出せ」中山隆幸監督の、ゲキに聞こえた。「俺たちが守る」口々に言い残して、守備位置に散った。打席には、当たっている中京大中京の、一番打者。
エース山崎が投じたストレートは、内角低めに。土煙を上げてセンター方向へ。『抜けたー』っと。【闘志は燃える】二塁手三木が横っ飛び。バシー。グラブに収めた。トスを受けた遊撃手三村がベースを、踏みチェンジ。「よっしゃーええぞー」静まり返っていた倉工大応援団一塁側アルプススタンドが息を吹き返した。指揮官のゲキは、さらに続いた。「(中京大中京のエース)堂林(現広島カープ)のスライダーは二種類ある。高めに入るのと、低めに落ちるスライダーだ。その低めのベルトより低いスライダーは捨てろ。ベルトより高いスライダーを打て。」指揮官は、いつも「積極的に打て」と言って来たが、この時初めて「低めは打つな捨てろ」と言ったのだった。
すると、『守備から、リズムを作る』倉敷工が理想とする展開が六回に。この回の、先頭打者井上が内野安打で出塁。4番三木は、遊撃手が打球を胸ではじく強襲安打。さらに日下の犠飛。
山形の中越え二塁打。五回まで3安打だった倉工打線が一気に爆発した。
「絶対につなぐ」倉敷工一死二塁。山形に続いて、エース山崎が左前打。山崎の一打で、倉敷工は1点差に迫った。六回が終わって、倉敷工5点中京大中京6点。
1点差のまま迎えた九回裏倉敷工の攻撃。
一死後、山本が右前打。だが、後続が倒れゲームセット。強豪相手に、粘り強さを発揮し
観衆に、「キセキ」を見せて来た選手を指揮官は、【選手を称えたい。すごいチーム。本当によく応えてくれた。】と話した。
そこに(敗者の美しさ)が見える。そして、甲子園球場に爽快な春風が吹いていた。

つづく
随時掲載

お願い
本文に迫力を持たせるため、敬称は略させて頂きます事をご了承下さい

参考
山陽新聞
毎日新聞
(当時の、新聞記事を参考にして、一部を引用しています。)

協力
小山 稔氏「元倉敷工業高校野球部コーチ」
神土秀樹氏「元倉敷工業高校野球部コーチ」
和泉利典氏「元倉敷工業高校野球部監督」
中山隆幸氏「前倉敷工業高校野球部部長監督」